- ホーム
- Home
2013年5月30日に放送されたTBSラジオ「荒川強啓デイキャッチ!」にて、山田五郎さんが放送前日の5月29日に自民党、公明党、日本維新の会の3党によって衆議院に共同提出された児童ポルノ禁止法改定案について話していました。『児童への性犯罪抑止の効果はほとんど期待できないのに副作用は大きすぎる』と語る山田五郎さん。果たしてその主張とは? 個人的に思ったのは、憲法学者の木村草太さんが憲法96条改正の件で語っていた『将来、頭がよくて邪悪な人間が登場したときの危険性』と通じるところがあるなぁと。規定が曖昧すぎて悪用フリーダムだし、善良市民の正義感を利用して国民を縛る法律を作ろうとしているそのしたたかさに邪悪な賢さが垣間見えて恐怖を覚えます。 | ![]() |
■会話をしている人物
山田五郎 (美術評論家 / タレント / コラムニスト / 元講談社編集者)
荒川強啓 (フリーアナウンサー)
片桐千晶 (フリーアナウンサー)
山田 昨日29日ですよね、自民公明維新の3党が児童ポルノ禁止法の改正案を衆議院に共同提出したんですよ。
荒川 はい
山田 で、今国会での成立を目指しているってことなんですけども、まぁコレに対しては日本雑誌協会をはじめ、出版界をはじめ各方面から反対の声が上がってて、まぁ私自身も反対なんです。で、これあのぉ、2010年のね、東京都の青少年健全育成条例の時も問題になりましたけど、この児童ポルノ法関連に反対って言うと、あのぉ、『なんでだ!』って意見が出るわけですよ。
荒川 ええ
山田 『子供を性被害から守る為にね、児童ポルノを取り締まるのは良いことじゃないか!』と。ほとんどの国民が思っているんですよ。
荒川 はい
片桐 うん
山田 それはその通りなんですよ。だ、だからね、改正に反対するのはね、児童ポルノを守ろうとしているように聞こえるんですけど、『そうじゃない!』ってことをまず始めに言っときたいんですよね。
荒川 ほお!
山田 誰だって子供を性被害から守りたいわけですよ。
荒川 ええ
山田 ね。じゃあなぜ反対するのかって言うと、まぁ今回の・・・前の都条例の時もそうだったんですけど、今回の改正が子供の性被害から守るっていう上でほとんど効果が期待できないと。
荒川 うん?
山田 その一方で、この法律を盾に誰でも逮捕できてしまうような危険性を秘めてる。
片桐 うん
荒川 えぇ!
山田 効果が期待できない上に副作用が大きすぎるから反対しているんだってことをまず最初にわかって頂きたいんですよ。
荒川 それは早く知りたいなぁーー。
片桐 ふふ
山田 あのぉー、これね、漫画とかアニメファンだけの問題でしょ?みたいな風に思っているかもしれないですけども、今回は違いますよ。あの東京都の青少年健全育成条例改正の時と同じ状況ですけども今回はまず国家レベルですよ。
荒川 はい
山田 それで、刑事罰の追加を含む改正なんですよ。
荒川 ほぉ!
山田 だから東京都民じゃなくっても、漫画アニメファンじゃなくっても全国民が思わぬところで逮捕される可能性がある内容なんですよ。
荒川 うん!
山田 『私に関係ない』とか言えないんですよ。男女も関係ないんですよ。片桐さんも『私女だから関係ない』とか言えないんですよ。
片桐 うん
荒川 そうなの?
山田 そういう問題なんですね、はい。で今回のこの自公維による改正のポイントは6つあるんですよ。
荒川 うんうん
荒川 で、良い改正もあるんですよ。んで、明らかな改悪と思えるのも2点あるんですけども、まぁ漫画アニメの規制に踏み込んだっていうところがあって、これに反対している人も多いんですけども、今回時間も限られているので僕が最大の問題点であると思う『単純所持の禁止』と『罰則規定』って、ここだけに絞ってお話ししますね。
片桐 うん
荒川 はあはあはあ
山田 で、今回の改正案では、現行の児童ポルノ禁止法・・・これも勘違いしている人が多いんですけど今現在あるわけですからね、児童ポルノ禁止法っていうのがあるわけ。で、それに対して改正で新しい条項を加えようと言っているわけですよ。
荒川 はい。
山田 で、次の2項目を新たに加えようとしています。
荒川 ほう
山田 まずは第6条の2っていう所で、『何人も、みだりに児童ポルノを所持してはならない』(注:正確には『何人も、みだりに、児童ポルノを所持し、またはこれに係る電磁的記録を保管してはならない。』)
山田 所持してはならない。
片桐 所持してはならない。
荒川 うん
山田 で第7条。『自己の性的好奇心を満たす目的で児童ポルノを所持したものは1年以下の懲役または100万円以下の罰金に処する。』これ刑事罰が付いたわけです。
片桐 うん
荒川 うん
山田 ね。これいわゆる『単純所持の禁止』っていうことなんですよ。持っているだけでアカンよっていう。
荒川 ちょ、ちょっといいですか?『自己の性的好奇心を満たす目的』ってなんですか?
山田 そうです、それ後で。
荒川 あとで、はい。
山田 フフ、まぁ単純に持っているだけでダメなんだってことじゃないですか。単純所持の禁止ね。
荒川 ああ
山田 で、この規制が必要だっていう根拠は大きく言って3つあるんですね。
荒川 うん
山田 1つは、『児童ポルノを見ることで児童への性犯罪が誘発される』っていう、メディア効果論的な意見。
片桐 うん
山田 それから2つ目は、『買う人を取り締まることで作る人や売る人を減らせるんじゃないか』っていう、そういう意見。
片桐 うん
荒川 うん
山田 で、3つ目は、『海外で禁止している国が多い』っていう、意見ですね。
荒川 はあ
山田 で、まずですね。1番目のぉ、このメディア効果論的なことですけど、これはあのぉ、都条例の際にも皆さん、金曜日のコメンテーターの宮台さん(社会学者の宮台真司)なんかも主張していたように、このメディア効果論の、専門的には協力効果説って言うんですけども、
荒川 ええ
山田 まぁ例えばその、エロ本を読んだらエロくなるみたいな、犯罪小説を読んだら犯罪したくなるみたいな、ことって一見ありそうに見えるけど実は全く根拠のないことだよと。
荒川 はい
山田 で、メディアの効果って表現それ自体じゃなくって、どんな環境で接したかによって引き金になったりするっていう・・そういうことを言っていますよね。だから取り締まるべきは表現そのものじゃなくって、その表現に接する環境に対して制限を加えるべきじゃないかっていう風に言われていますよ。
荒川 はい
山田 それから2番目に、そのまぁ『持つ人をなくせば作る人がなくなる理論』ですよね。これはまぁ一定の説得力があるような気がするんですけども、ただ、今現在単純所持を禁止している国ってのは結構あるわけですよ。そういう国での児童ポルノの数、あるいは児童への性犯罪の数ってのは減ってないんですよね。
荒川 うん
片桐 ふーん
山田 で、日本より多いんですよ。そういう所を見ると、果たしてどれだけ効果があるかっていう問題があります。で、同じ理由で、海外でやっているからといって日本で必ずしもやる必要もないんじゃないかっていうことが言えると思うんですね。だから、これ単純所持の禁止ってのはよくよく考えると児童を性被害から守る上では、あまりと言うかほとんど効果が期待できないと言えると思うんですよ。
荒川 うーん
片桐 うん
山田 でも、『ちょっとでも効果があるんだったらやるべきじゃないの?』っていう意見もあると思うんですよ。
荒川 うんうんうん
山田 だけど、そこで僕が言いたいのは、さっきも言いましたけど、そこにくっついてくる問題点、いわゆる副作用みたいなのが大きすぎるんじゃないかなって思うんですよ。
荒川 ほうほう
山田 まず、今回の改正案では過去に取得したものでも持っていれば犯罪になるわけです。
荒川 以前の持っててもダメなの
山田 はい。あの、よく『宮沢りえのサンタフェどうなるんですか?』みたいな話、昔よく国会で議論でましたね。(注:1991年に発売された女優・宮沢りえのヘアヌード写真集「Santa Fe」。撮影当時は17歳だったとされている。155万部のベストセラー。高校や公立の図書館でも貸し出されている。)
片桐 ほぉー
山田 なった、あるわけですね。で、僕、都条例の時にも言ったんですけど、例えば19世紀のイギリスでね、ルイス・キャロルが撮った少女ヌードどうなんだ? (Lewis Carroll:イギリスの数学者、論理学者、写真家、作家、詩人。『不思議の国のアリス』の原作者として有名。少女ヌードを多数撮影している。)
荒川 うん
山田 この場合、撮られた少女も撮ったルイス・キャロルももういないですよ。
荒川 ええ
山田 現時点で被害者も加害者もいないじゃないですか。児童を守ることにこれ全く繋がらないじゃないですかっていう問題があるし。
荒川 ええ
山田 それ以上に憲法の第39条に規定された『法の不遡及』ってのがありますよね。『何人も、実行の時に適法であった行為については刑事上の罪に問われない。』っていう
荒川 うん
山田 要するに法律が決まる前に、あの、状態で合法だったものは新しい法律が出来たからって取り締まれないよっていう
荒川 過去には遡らないと
山田 はい。憲法にそういう『法の不遡及』ってのがあるわけですよ。それにも触れてくるんじゃないかっていう問題がある。
荒川 はあ
山田 でね、より大きな副作用としては、そもそも何が児童ポルノかの定義が曖昧なわけなんですよ。
荒川 うん
片桐 うーん
山田 で前に国会で児童ポルノが論議された時に『ドラえもんのしずかちゃんの入浴シーンはどうなんだ?』とかね。
片桐 はぁー、えぇー!
山田 あと、これ男女関係ないですから児童は。『じゃあジャニーズのね15歳くらいの子がね、上半身裸でセクシーなポーズをしているのはどうなんだ?』だとか
片桐 うわぁーー。
山田 そんな話が大真面目に議論されたくらいに曖昧なわけじゃないですか。
片桐 うん
山田 で、『そこは良識の範囲で』って言うかもしれませんけど、『なにが良識なのか?』ってまた堂々巡りになるでしょこれ。
片桐 人によって違いますしねぇ。
山田 人によって違うんですよ。だから人によって違う、解釈が分かれたりして基準が曖昧な問題に刑事罰を科するべきじゃないと僕は思うんですよ。
荒川 うん
山田 これ別の言葉で言えば、逮捕しようと思えばできる状況なわけですよ。だから、わかんないですけど例えば強啓さんがね、けしからんことを、警察を批判するようなことを言ったと。『ちょっとアイツ締めてやらんといかん』と強啓さんのところ探ったら、あの、小っちゃい頃子供とお風呂に入った写真が出てきたと。『どうだ!』みたいな。
片桐 児童ポルノ法に反する!みたいな(笑)
荒川 なんで親が子供とお風呂一緒に入っちゃいけないの?
山田 ね?だからそうなるわけですよ。
片桐 うん
荒川 ならないよ、そんなの。
山田 いやいや、そこが解釈でどうにもなっちゃうからが怖いとこですよ。
片桐 うーーん
山田 強啓さんがいくら違うって言っても。まして・・・これさっきの処罰規定のね7条のところ。強啓さん問題にしましたけど、自己の性的好奇心を満たす目的で、所持していた場合に、1年以下の懲役か100万以下の罰金に処するわけですよ。
荒川 うん
山田 なにが児童ポルノか曖昧な上に、自己の性的好奇心を満たす目的かどうかっていうのを誰がどうやって決めるか。
片桐 うーん
荒川 そうだよぉ
山田 強啓さんもしかして知らないで15歳の、なんかエロティックな水着写真を持ってたと、まぁ仮にしましょうや。
荒川 ない(笑)
山田 わかんないですよ、どっかに入っているかもしれないし、新聞に入っちゃうかもしれないし。
片桐 頑なに否定しますね(笑)
山田 『これ何ですか!?これあなた自己の性的欲求を満たす目的で持っているんじゃないですか?』。・・・これどうやって違うって証明します?
片桐 いやぁーーー。
荒川 何と思われようと、そっちの思い次第だからねぇ。
山田 でしょ?
荒川 『そっちの勝手だろ』で終わっちゃうよ
山田 『そっちの勝手だろ』で終わっちゃうんですよ。だけど『そっちの勝手だろ』に、刑事罰が付いてくるのは、これ、よろしくないんじゃないですか?
荒川 はぁ。持ってるだけでもダメってそういうことかぁ。
山田 しかもその、自己の性的欲求を満たすためか否かみたいなことをじゃあ裁判でやりますよね。それってやっぱり個人の趣味嗜好に司法が介入するっていう問題にもなってきますよね
荒川 うん
山田 だからね、今回の改正案ってのは、子供を性的被害から守るって本来の目的からすると甚だ効果が期待できない上に、これを口実に不当な逮捕や取り締まりとか、あるいはそこまで行かなくても、これ業界の自主規制ですよね。が、蔓延させるっていう、そういう大きな副作用があるんですよ。
荒川 これ地下に潜っちゃうよ。
山田 その問題もありますよね。逆に地下に潜るっていう。
荒川 うん。潜っちゃう。
山田 曖昧なままで処罰の規定をやると、その網の目をぬってドンドンドンドン地下に潜って歪んだ形になっていくっていう問題がありますよね。
荒川 うん
山田 これはね、今国会で慌てて成立させる問題じゃなくって、もう一回ちょっと考え直した方がいい法律だと思いますけどね。
と話していた。
■編集後記:日記ブログで逮捕される日
先日、自宅の物置を整理していたらアルバムを発見しました。そしたら素っ裸の児童の写真があってビックリ。何の写真かというと、僕が通っていた公立保育園で毎年夏の終わりに実施されていた「くろんぼ大賞」ってイベントの写真です。
「くろんぼ大賞」とは、要するにひと夏で日焼けを競うイベントです。日焼跡を確認するために児童たちは全裸になって整列。水着で日に焼けていない部分と比較をして日焼け度を競います。
凄くないですか?(笑)。これ今の感覚だと完全にアウト。まず「くろんぼ大賞」って差別的なタイトル。そして日焼けを奨励しているわけで、これも今だと有り得ない。何より考えさせられたのは、その写真、5歳児くらいの児童が20人くらい全裸で並んでいるわけですよ。もちろん男の子も女の子も全裸で写っています。
児童ポルノ保護法で問題提起するなら、時代によって倫理観や文化は変わるものなので、それを法律で規定してしまうと歪みが出てきますよと。
例えば「くろんぼ大賞」。今ならアウトだけど20年前なら何の問題もなかったんでしょう。同じように、今は問題じゃないことが20年後は完全にアウトになっちゃったりするわけですよね。これが怖い。
山田五郎さんは取り上げませんでしたが、児童ポルノ禁止法の改正案の第6条の2はこう書かれています。『何人も、みだりに、児童ポルノを所持し、またはこれに係る電磁的記録を保管してはならない。』 あえて「電磁的記録を保管」について規定しているわけです。電磁的記録とはデジタルデータのことですよね。写真を現像していなくても、デジカメやパソコンにデータとして保存されているだけでアウトですよってこと。
で、思ったんです。20年前に今のようにデジタル器機が普及していたら「くろんぼ大賞」の画像は公に拡散していただろうし、児童ポルノ法に抵触しちゃうんだろうなって。だってデジカメが登場してから写真の枚数制限が実質的に無くなったので気軽に何枚でも撮影するようになりましたよね。で、きっと自分の子供以外の写真も沢山撮るでしょう。図らずとも撮っちゃうでしょう。ブログに掲載する親もいるはずです。じゃなかったとしても、パソコンに画像データを保存しますよね。それ、たぶんアウトです。逮捕できます。事実イギリスでは孫が全裸で水浴びしている写真をPCに保存していたため逮捕された事例があります。
繰り返しますが、倫理観や文化ってのは時代とともに変化するわけで、今は問題ないことも20年後とかは完全にアウトになったするわけです。それなのに過去OKだったものでも今ダメなら逮捕されるんですよ。デジタル器機が普及してソーシャルメディアが浸透したこのご時世、その危険度は20年前の比じゃありません。書いたのを忘れていたような10年前の日記ブログが原因で逮捕とか十分にあり得ます。怖い世の中ですよね。児童ポルノ禁止法は表現者だけの問題じゃないんです。
■追記:次の放送で「電磁的記録」についても取り上げてくれました!
その書き起こしはこちら↓
山田五郎が語る児童ポルノ禁止法パート2【イギリスの児童ポルノ一掃作戦の悲劇】
2013年5月10日に放送されたTBSラジオ「荒川強啓 デイ・キャッチ!」にて、先日、米国議会図書館の議会調査局レポートで安倍晋三首相が「strong nationalist(国家主義者)」「ultra-nationalist(国粋主義者)」と名指しされた件についてニューヨーク在住ジャーナリスト北丸雄二さんと社会学者の宮台真司さんが語っていました。 | ![]() |
■会話をしている人物
北丸雄二 (ジャーナリスト / ニューヨーク在住)
宮台真司 (社会学者 / 首都大学東京教授)
荒川強啓 (フリーアナウンサー)
片桐千晶 (フリーアナウンサー)
補足:国家主義と国粋主義
国家主義とは、国民より何よりも国家を人間の社会結合の中で最高のものと考える立場を指す思想や行動のこと。
国粋主義とは、ある国家に固有の文化・伝統を礼賛することで国家意識の発揚をはかる思想や運動のこと。過激で好戦的な国家主義者のことを国粋主義者と呼んだりする。広義のファシズムと同一視されている。
荒川 アメリカ議会が安倍総理を批判ということですね。『強硬なナショナリストだぞ!』ということを言っているようですが。
北丸 あの、調査局がですね。『ナショナル主義者、国粋主義者だ!』っていう風に言っているんですけど。
荒川 ええ
北丸 実は男性主義って国粋主義、国家主義と結びつくんですね。
宮台 その通りですね。
荒川 そうかそうか。
北丸 国粋主義の根源にあるのは家父長制度なんですよ、パターナリズムなんですよ。
荒川 うん
北丸 父親的統制主義。『俺に任せろ!何にも言うな!』ですよね。
荒川 絶対的な強さは・・父親なんだよという教えがね、今までありましたからね。
北丸 それが、国権に、国に仮託されるわけですね。そういうものを超克(ちょうこく / 困難や苦しみに打つ勝つこと。それを乗りこえること。)してきた、先ほど言った政体化してきたのが現代の先進国の有り方なのにもかかわらず。
荒川 うん
北丸 日本は先進国って言われているんだけど政治家たちがそこら辺のことを自覚していないんですよねぇ。
荒川 あぁー。
北丸 それが結局、あのぉ、オバマ政権にとっては歯がゆいんじゃないかなぁ
宮台 あのぉ、そうですね、僕はこれ教養の問題だと思うんですね。
荒川 教養
宮台 はい。19世紀の末にね、ニーチェが、あの、力にすがる人間は、まぁ簡単に言えば弱者だということを明らかにしましたよね。
北丸 はい
宮台 その力っていうのは、ニーチェが推奨する内から湧き上がる力じゃなくって外に存在する超越的なモノの、まぁ例えば神様とかね、崇高な国家を崇拝する人間たちは、まぁ簡単に言えばヘタレだと断言をした。
荒川 うん
北丸 ハハ(笑)
宮台 で、実は敗戦後ですね、フランクフルト学派って言われるドイツのですね、まぁユダヤ系、アメリカに居る人たちが同じ図式を使ったんですね。
荒川 うん
宮台 えぇ例えばナチスドイツ。これを支えたのは無教養の人間というようりも、むしろ教養がある中産階級が没落をした結果、鬱屈した不安な状態になって、強い者にすがったっていうね、同じような図式をまぁ、アドルノ(テオドール・アドルノ / ドイツの哲学者、社会学者)、ホルクハイマー(マックス・ホルクハイマー / ドイツの哲学者、社会学者)も展開をしている。
北丸 はい
宮台 こういうね、もう100年以上存在する、まぁ要するに『強がっている人間、攻撃的な人間ってのは所詮ヘタレなんだ』っていうね、この認識。
北丸 ええ
宮台 つまり恥ずべき存在なんだ、つまりね、この、強硬なナショナリストってアメリカが言う場合にはこういうことを踏まえている。つまり、感情で釣ろうとする浅ましきポピュリストっていうイメージが一方にあるのと
北丸 はい
宮台 あともうひとつ、様々な問題を感情的な表出によって果たそうとするヘタレっていう、まぁ両方の意味をはらんでいるんですよね。
荒川 ということは、北丸さん。アメリカ議会は安倍総理をそういう風に見ているってことですか?
北丸 いや安倍、安倍さんに対して議会だけじゃなくってニューヨークタイムズ、ワシントンポスト、ウォールストリートジャーナルというこの三大高級誌が全部社説の中で『ナショナリスト』という形容詞を付けながら安倍のことを、安倍さんのことを言っているわけですよね。
荒川 はぁー!
北丸 必ずそれは、安倍政権が、あの、再登場してきた時から必ずそういう形容詞なんです。
荒川 うん
北丸 それに加えて、あの、議会調査局がコレ(議会調査局レポート)を出したということですね。
荒川 あぁー。
北丸 まぁオバマ政権として、政権としては表立ってそういうことは言いませんけど、その辺の何て言うのかな、政治家の意識と言うのがですね・・・まぁこれ日本だけじゃなくてアジアも同じで意識化されていないんですよね。それが何でダメなのか皆知らないのか知っているのかよく分かんないんですけど。
宮台 北丸さんね、そこが大変な問題で、アメリカで右翼と言うとね、国家を頼らない自立した存在で、だからガン、まぁ銃を持つということなんだけど。日本ではですねぇ、あの、その、いわゆるですねぇ、『国の為に何でもするぞぉ!』みたいな人が右という風に呼ばれるというですね、明らかな後進制を今でも引きずっている。
北丸 そうですね。
宮台 あの、ドイツはこういった後進制をとっくに克服したんだけども、今でも国粋主義という意味での悪しきナショナリズムがね、まぁ右だと思われている。これはね、先進国では恥ずべきことだと理解が必要ですね。
と話していた。
宮台真司 (社会学者 / 首都大学東京教授)
荒川強啓 (フリーアナウンサー)
片桐千晶 (フリーアナウンサー)
宮台 今回ね、車の中で聴いてらっしゃる、あの、新しいリスナーも沢山いると思うのでチョット丁寧にお話しをしますね。
荒川 はい
宮台 あの、憲法って英語でConstitutionです。法って言葉が入っていません。
荒川 うん
宮台 これつまり、みんなで統治権力をどのようにいただくのかとういのを契約し合ったものっていう意味なんです。
荒川 いただく?
宮台 うん。簡単にはこうです。自治。
荒川 ええ
宮台 僕たち民主って言うでしょ? 民主の本義は多数決ではないんです。自治なんです。自分たちで自分たちのことを決めること。これがね、民主主義の本義なんです。
荒川 ええ
片桐 うん
宮台 で、自分たちで自分たちのことを決める。えー、そこに、統治権力が勝手に介入してこられてしまっては自治が成り立ちませんよね。
荒川 そうですね。
宮台 だから統治権力が介入してはいけない市民たちのコミュニケーションの領域を定めたものが、これが人権規定なんです。
荒川 うん
宮台 えぇ、人権ってのは、天賦人権論(すべて人間は生まれながら自由・平等で幸福を追求する権利をもつという思想。)うんぬんかんぬんってのは実はどうでもよくて、その本質的な機能は、もう一度言いますよ? 自治に国家権力が勝手に介入できないようにするためのものなんです。
荒川 それが立憲主義(政府の統治を憲法に基づき行う原理)ということに繋がるわけですね。
宮台 はい。だからあのぉ、憲法という言葉をね、あのぉ・・・もつ、例えば中華人民共和国憲法とかね、ソビエト憲法とかあったりするので、言葉は意味がないんです。言葉ではなくて、今申し上げたように、人々の自治に介入してはいけないという風に統治権力を制約する、言わば総合的な契約をしている、これが憲法なんですね。
荒川 はい
片桐 うん
宮台 だから人権規定、つまり『統治権力が国民の生活に勝手に介入してはいけない』という規定を持たないものは憲法ではないんです。憲法という名前が付いていても。
荒川 はい
宮台 だからその意味で言えば今回の自民党の憲法草案は、あの、まったく憲法に関する議論にはなっていない。
荒川 だから国家権力だったり、その時の為政者(いせいしゃ / 政治家、官僚等。政治を司る立場の者。 )が何をしでかすのか分からないので我々はそういう人たちを縛りつけるという意味で憲法があると。
宮台 そうですね。そうですね。よく、教育義務とかね、徴兵義務とか納税義務とかをね、『コレ、国民の義務、規定しているじゃないか!』とかって頭の悪い人がいるんだけど、これ英語で読むと必ずね『As provided by law』って書いてあって『仔細は法で決める』って書いてあるんですね。つまり、一見憲法が国民に命令しているように見えても、これはズルする奴を許さない法律を作れっていう風に国民が統治権力に命令しているという形なんです。
荒川 そういうことですね。
宮台 まぁこれは常識として知っておいて頂きたいですねぇ。
荒川 はい
宮台 あの、憲法というのは国民が従うものではなくて統治権力を国民がコントロールするものなんだ。
片桐 うん
荒川 縛りつけておく。勝手なことをやらせないぞ!っていうことですもんねぇ。
宮台 はい。で、その形を持っていなきものは憲法ではない。
荒川 はい
宮台 もうひとつは憲法の意味は、自治を支えるために、えぇ、国家はあるだけで、自治を妨げてはならないというのがポイントなんですね。・・さて、いいですか?
荒川 はい
宮台 さっき強啓さんおっしゃいましたよね。『もう統治権力の横暴にはこりごりだ。』
荒川 うん
宮台 横暴な課税だったりね、勝手な戦争だったりとか。あるいは勝手な宗教弾圧だったり。まぁ実際それが歴史でしたよね、ヨーロッパやアメリカのね。
荒川 はい
宮台 だから、その悲劇を共有した人間たちが『もう二度と御免だ!』っていうことでお互いに決まり事を作って統治権力を枠の中に封じ込めた。さて我々はそういう悲劇の共有を実はしていない。でそれが、実は自分たちが憲法を作ったかどうかの問題ではなくって悲劇の共有をしていないので・・・『いや原爆落ちたよ』って言うかもしれないけれども、残念ながら自力で立ち上がっていないんです我々は。アメリカのおんぶにだっこで立ち上がってきてしまったので、これは悲劇を共有したとは言えないので
荒川 うん。だから日本の独自の憲法を作れって言う声の人に繋がっていくわけですか?
宮台 それは全くあのぉー、オツム的に問題でね、あのぉ、どういう筋かというと、統治権力の悲劇を共有しているから制約しようとする。自分たちの意思を表明しようとする。これが憲法なんですね。
荒川 うん
宮台 で、僕たちは共有していないから・・・いいですか?やるべきことはこの悲劇の共有に相当するものをもう一度、リマインド、思い出して統治権力の制約に乗りだそう!っていうのが自分たちで作るっていう意味なんですね。意味分かりますよね?
片桐 悲劇を共有する・・・
宮台 そうです。だから自分たちが二度と統治権力に横暴な、えぇ、乱暴な振る舞いは許さないっていう意思を共有し直すっていうっていうことが憲法を自分たちで書くって意味なんです。
荒川 つまり戦前に戻さないぞ!ということですか?
宮台 戦前に戻さないという意味でもあるし、あるいは戦前になかったことだってこれから起こる可能性があるんですね。
荒川 うん
宮台 あの、日本だけではなくどこでもそうなんだけれど、あのぉー、グローバル化進みますよね。で中間層が分解します。格差化、貧困化が進みます。えぇ皆、苦しい状態になります。ね、溜飲を下げたい人も一杯いるし、承認が欲しい人も一杯います。だから先ほどね、別の話題で申し上げたように公のことを語っているようでいながら実は「みんな認めて!僕のこと見て!」みたいなね、コミュニケーションばかりになって
荒川 うん
宮台 えぇー、それこそ多数決みたいなやり方で物事を決めると、デタラメなことばっかり決まっていきかねないんですね。
荒川 いやだから、今の・・
宮台 だ・か・ら、いいですか? だから益々どこの国でも自治が大事になっているの。まともな自治がね。
荒川 えぇ、だからね、その、「悲劇を共有したものはないんだ」と。「だから自分たちの憲法を、押し付けではない自分たちの憲法を作ろうよ!」と言うひとが居るわけでしょ?
宮台 あ、でもそれは筋が悪くてね、元々GHQは日本人に憲法を書かせようとしたんです。その時の条件はね、「新しい民主主義の国家にふさわしい憲法を書け!」って言ったの。
荒川 うん
宮台 ところが全く書けなかったの。
荒川 うん
宮台 大日本帝国憲法を少しですねぇ、化粧した、コスメティックって言ってたけど(笑)。あのぉ、化粧直ししただけのですね、全くデタラメな憲法しか作れなかったんですね。
荒川 うん
宮台 で、しょ・・それでしょうがなくですね、マッカーサーがぁ民政局のですねぇ、あの、民主党系理想主義者たちにね、『まずは草案を作ってやれ』と。『こいつらダメだから』という風にして出来たという経緯がある。つまりね、私のお師匠であった極右、小室直樹先生によると『日本人には憲法を書く能力が無かったし、現在も書く能力がない。』。能力がないという意味は先ほど申し上げたようなことです。
荒川 あのね、宮台さんは憲法改正はどうなんですか?ご自身は。
宮台 憲法改正は賛成なんです。
荒川 で、96条の改正はどうですか?
宮台 っていうゆうな話をするのは実は間違っているんです、筋がね。
荒川 ほう
片桐 うん?
宮台 まず、今申し上げたように、国民がね、憲法の中身より『憲法とは何か?』という事態をまだ分かっていない状況で、ね、憲法改正のハードルを下げるというのはデタラメが起き放題です。
荒川 あ、ハードルを下げるということは96条に手を付けるということですね
宮台 そう。だって国民が憲法とは何なのか理解していないんだよ、まだ。
荒川 うん
宮台 ね? そんな状態で、しかも自民党憲法草案を作った人たちの中にはね、これあのぉ、東京大学法学部出身のカッコ付きインテリさん達カッコ笑いもね、沢山いるわけですよ。
荒川 うん
宮台 でこれでね、まぁホントによく東大を卒業できるかっていうところが東大の問題でもあるんだけども。
荒川 うん
宮台 あのぉー、今申し上げたこと分かりますよね。つまり、憲法というのは法律じゃないんです。
荒川 はい
宮台 なのでぇ。法律じゃないんだっていう事がよく分かっている国民たちが大勢出てくるという状態になった時にはハードルを下げましょう。
荒川 うん。
宮台 国民は分かってないんだから。ハードルは高ければ高いほどいいです。
と話していた。
【あわせて読みたい】憲法学者・木村草太が語る憲法そもそも論『改憲論への回答』
【あわせて読みたい】伊藤真弁護士が語る『ご存知ですか?日本国民は憲法を守る義務なんてありません。』
【あわせて読みたい】伊藤真弁護士が回答『日本国憲法は米国に押し付けられた?成り立たない議論です。』
スポンサード リンク
- ホーム
- Home
最新コメント